白ワインの銘醸地として名を馳せるイタリア最北東の州、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア。スロベニアと国境を隔てるゴリツィア県モラーロという閑静な農村でアルベルトとレナータ夫妻は生まれ育ちました。そこは何世代も前から絶え間なく葡萄造りが行われてきた、テロワールに恵まれた土地。
二人は考えました。この愛する故郷の魅力をもっと引き出したい。1つの畑(クリュ)で単一種の葡萄を育て、それぞれの風土の特徴を忠実にワインで表現できないだろうか、と。そして2009年に二人はワイナリーを立ち上げました。これがムルヴァの出発点です。
初年度に手がけた畑は1ヘクタール。その後毎年少しずつ広げていき、今は合計4ヘクタールを保持しています。彼らは30年かけて培った経験値と専門知識を総動員し、土壌の違いはもちろん、降雨パターンや風の影響、熱指数など様々なファクターを細かく見極め、どの品種をどの畑に植えるかを慎重に決めていきました。複数の国の統治下でそれぞれの影響を受けたゴリツィア県の独特な歴史的背景や、葡萄の遺伝的特徴まで考慮する徹底ぶり。というのも、畑に最適な葡萄を選ぶことこそ、人間ができる最も大切な仕事であり、植えた後の主役はあくまで自然環境だと彼らは考えているからです。
ムルヴァの葡萄畑では化学肥料や除草剤、殺虫剤を使用せず、自然環境に葡萄を育てさせています。人間は自然の要求に応じて剪定や下草の管理、天然肥料を与えたりと、あくまでサポート役。その結果、有機物が豊富で昆虫や生命に満ちた土壌ができあがります。
豊かな自然環境で育てられた葡萄を使ったワインは、故郷の風土を色濃く残し、ムルヴァのワイン造りの稀有な透明度の高さを感じられます。口にすれば、「ワインはブドウ畑の窓」という彼らの哲学を実感するはずです。